東京に住んでもう20年を超えるけれど、
練馬という場所に降り立ったのは、
たぶんこの日が初めてだと思う。
目的は「鼓童」という和太鼓グループのライブ。
YouTubeでたまたま映像を観て、鳥肌が立った。
こういうのは理屈じゃない。
これはもう、生で体験しなくちゃダメだ、と
身体が勝手に動いていた。
運よく直近に練馬公演があるのを見つけて、
友人を誘って出かけた。
駅近くのインドカレー屋「ケララバワン」を友人が教えてくれて、
そこで夕食を済ませ会場へ向かった。
会場は駅からすぐ近くの公園が整備された綺麗な区民センターだった。
大きなホールはほぼ満席で、外国人の姿も目立つ。
ライブの直前でチケットを手配したので、
後ろの席しか空いていなかったけど、全く問題なかった。
ライブが始まってすぐに、
太鼓の音が地の底からじわじわと響いてきた。
細胞の内側にまで染みこんでくるような音。
なんだろうこの感じ…と思っていたら、
昔ジャンベを習っていた頃のことを思い出した。
太鼓って、ただの楽器じゃないんだよな。
もっと原始的で、もっと深い。
音というより、何かの記憶みたいなもの。
ペルーを旅していた頃、アマゾンのお茶の儀式で、無音の空間に誘われ、
自分の心臓の音のみが響いている体験をした事がある。
ドドン、ドドン、と、中心から全体に力強く響くリズムに
ひたすら浸ったあの時間を思った。
太鼓の音は、命の音そのものなのかもしれない。
極まった芸術には、神様の匂いがする。
舞台もアートも、突き抜けた瞬間に、
ほんの少しだけ別の世界の入り口を見せてくれることがある。
この日、ステージの上で、私は何度も鬼が舞うのを見た。
実際に見えたわけじゃないけど、確かにそこにいたと思う。
そういうふうに感じられる時間って、そうそうあるものじゃない。
シャーマニックな、祈りのような時間だった。